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Masayuki Akiyama

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「すばる」望遠鏡とXMMニュートン衛星による深宇宙探査(SXDS)による銀河とブラックホールの共進化

この文章は天文月報2008年1月号に載せた記事(元はこちら)を加筆修正したものです。

活動銀河中心核と巨大ブラックホールの成長

図1:SXDS領域の可視光(「すばる」望遠鏡による)、X線(XMMニュートンX線衛星による)、電波(VLAによる)での画像

活動銀河中心核(AGN)は銀河中心にある巨大ブラックホールへ物質が降着する 際のエネルギー放射を見ていると考えられています。巨大ブラックホールの成長の 大部分はAGNとして観測される降着過程で起こっているという示唆もあります。 私が修士の学生であった頃(もう10年前になりますね)にはAGNの研究と銀河の研究 というのは近そうで遠い関係にありました。例えば遠方の銀河の研究をする上で、 AGNの存在というのは、遠くの暗い銀河を探すための灯台であったり、銀河の影を 吸収線として捉えるための光源であったりと、ツールとして比重が大きく、電波銀河の ジェットによって誘発される星形成モデルなど特殊なケースを除いては AGNの存在と一般の銀河の形成、進化とのつながりというのはあまり意識 されることはありませんでした。

ところが、Kormendy 達による研究により、銀河系近傍の銀河では銀河の球状成分 (楕円銀河や渦巻銀河のバルジ部分)の質量が大きい銀河ほど、その中心に 大きな質量の巨大ブラックホールを持つという関係が示唆されます (Kormendy et al. 1995, ARA&A, 42, 603)。 これはブラックホール成長過程が銀河全体のスケールの物理に密接に結びついている (あるいは逆に、銀河全体のスケールの形成過程がブラックホールスケールの物理 と結びついている)ことを示唆します。またさらに銀河間物質によるライマンブレーク を捉えるという遠方銀河の 選択方法が確立することにより、宇宙の単位体積あたりの星形成率が近傍宇宙から 遠方宇宙にかけて進化する様子が議論され始め(Madau et al. 1996, MNRAS, 283, 1388)、その星形成率 は近傍宇宙から高赤方偏移に向かうにつれて大きくなり、赤方偏移2付近でピーク を迎えるということが明らかになりました。この結果はそのころすでによく知られて いた赤方偏移2付近でピークを持つQSOの数密度進化とすぐに結びつけられ、QSOの 数密度進化(すなわち巨大ブラックホールの降着による成長がいつ起こっているか?) と宇宙の中での星形成率は似た進化を示すと指摘されました(Boyle & Terlevich, 1998, MNRASW, 293, 49)。 このことは銀河スケールの星形成と銀河中心でのブラックホールの成長過程が宇宙の 歴史の中で似た時期に進行していたことをも示唆します。

ところで、巨大ブラックホールの成長過程の中で、AGNとして観測される ガス降着による成長はどのくらい重要な割合を占めているのでしょうか? 最近のAGNのハードX線光度関数の測定結果(Ueda, Akiyama, et al. 2003, ApJ, 598, 886) を用いた研究ではAGNとしてすでに 捉えられている降着過程を宇宙年齢方向に積分すれば近傍宇宙で観測されている ブラックホールの質量密度を十分説明できると言う結果も得られており(Marconi et al. 2004, MNRAS, 351, 169)、 ブラックホールの成長過程の大部分はAGNとして捉えられていると考え られています。これらのAGNの付随する銀河(一般にAGN母銀河、QSO母銀河と いわれる)を調べれば、このブラックホールの成長の重要な部分がどのような 銀河で起こっているかを明らかにすることが出来るはずです。

また、観測的にはAGNは遠方宇宙のブラックホールの様子を捉えられる 唯一のプローブです。近傍宇宙ではAGNではない銀河の中心の巨大ブラックホール もその周囲の星やガスの運動の様子から観測的に捉えられていますが、すこし 遠方の天体になるとこれは不可能になります。 例えば、近傍宇宙で観測されているブラックホール質量と銀河球状成分の質量 の関係に基づくと、10^11太陽質量の球状成分に付随するブラックホール の質量は10^8太陽質量と見積もられますが、このブラックホールが 銀河の中で力学的に支配的になるのは中心10パーセク程度の領域に限られ、 赤方偏移1の銀河では1.2ミリ秒角の領域に相当します。たとえば「すばる」望遠鏡 の回折限界はVバンドでも15ミリ秒角程度でとても遠方の銀河の中のブラックホール の存在を銀河中心部の力学から探ることは困難です。AGNとしてその中心 ブラックホールが光っていれば光度やそのまわりのガスの運動からブラックホール の質量について手がかりを得ることが出来ます。一方でAGNの存在はその母銀河の様子 を捉えることを困難にします。中心核が隠されていないブロードラインAGNでは 中心核付近からの光が銀河からの光を凌駕します。幸いAGNの中には中心核が可視光 波長域では中心核付近のダストによって隠されてしまっているナローラインAGNと 言われる種族が存在し、このようなAGNに対してはその母銀河の様子を調べることが 可能です。また、それらの中心核の様子は透過力の高い硬X線などを用いることに よって、探ることが出来ます。

ここでは図1に示したようなSXDS領域の多波長のデータ(特にX線)を使って、 AGNを選び出し、そのAGNに付随する銀河の性質を可視、赤外線のデータを 用いて推定し、AGNに付随する銀河と普通の銀河の比較を行います。これによって、 銀河の進化の中のどのようなフェーズでAGN活動が起こり、ブラックホールの 成長が進んでいるのかを明らかにすることが出来ると考えています。

赤方偏移1の宇宙での銀河とAGNの母銀河

宇宙年齢で言うと60%程度さかのぼった赤方偏移1付近の宇宙の 銀河の様子は、最近の大規模な多波長銀河探査の結果によりかなり明らかに なりつつあります。1つの重要な結果は、この時代にはすでに近傍 宇宙で見られる銀河のハッブル形態系列がかなり確立されつつあったという ことです。図2には、SXDS領域、GOODS領域で 分光観測によって赤方偏移が0.8-1.3にあると特定されている銀河 をB-R、R-z'の2色図上にプロットしています。2色図上で1つの系列 になっていることがわかります。中の図では、この系列に沿って赤い 銀河から青い銀河までいくつかの銀河をランダムに取り出して ハッブル宇宙望遠鏡の3色合成画像を示しています。2色図上に見られる 系列は右上の赤い楕円銀河から 赤いバルジと青いディスクを持つ渦巻銀河を経て、左下の青い不規則銀河 連なる形態の系列を反映していることが見て取れます。さらに右の図では、 この系列に沿って、銀河の平均スペクトルを示しています。赤い銀河は 4000Aブレークと呼ばれる古い星の4000A付近の金属吸収線が顕著に 見られるのに対し、青い銀河になると若い星に起因する3727Aの[OII]輝線が 顕著になることがわかります。このスペクトルと、2色図上での位置から、 銀河のカラーの系列は年老いたバルジ成分とダスト吸収を受けたディスク成分 という2つの成分を混ぜ合わせることできれいに説明がつくこと がわかりました。これらの結果は、近傍宇宙で見られるハッブル 形態系列と銀河の色、年齢の間の相関がすでに赤方偏移1付近の宇宙で 確立されつつあったことを示しています。

図2:(左)SXDS領域、GOODS探査領域の 分光赤方偏移で$z=0.8-1.3$にあることが確認されている銀河 の$B-R$、$R-z'$カラーの分布。実線は銀河のカラー進化の モデルで、左下が若く、年を取るにつれて右上へと移動します。 左上の矢印はダストによりどのようにカラーが 赤くなるかを示しています。赤方偏移1の銀河の系列は、 この赤化の系列(青い不規則銀河から赤化を受けたディスク)と、 年齢の系列(年老いたバルジ)の重ね合わせで解釈できます。 (中)左図で青四角で示したGOODS探査領域の銀河の 3色合成画像。左上から右下へ赤い銀河から青い銀河と言う順に 並んでいる。(右)SXDS領域の銀河の 平均スペクトルを$B-R$カラー別に求めたもの。それぞれの スペクトルは左図の1から5で示した範囲の天体の平均を 示している。

また近傍宇宙の銀河に見られる「系列」として最近脚光を浴びているのは 銀河の星質量と、銀河カラーや4000Aブレークの分布上で見られる2極化 と言われる分布です(Kauffmann et al. 2003, MNRAS, 341, 54)。図2にはSXDS 領域の銀河の星質量とU-Vカラー、4000Aブレークの 強度の分布をコントアで示しています。左側の上下のパネルは 赤方偏移が0.2-0.7の銀河サンプルの分布で、スローンデジタルスカイ サーベイのデータから指摘された近傍銀河の2極化と似た、 質量の大きい銀河は赤くて 4000Aブレークの大きい古い銀河が 支配的になるのに対し、質量の小さい銀河は青くて4000Aブレークの 小さい新しい銀河が多い、という傾向が見られます。 右側のパネルは赤方偏移 0.7-1.0 へさかのぼった分布の様子を 示していますが、似たような傾向はまだ続いていることが わかります。この2極化の傾向においても赤方偏移 1 の銀河は 近傍宇宙の銀河と似たような傾向を示しています。

図3:すばるXMM-Newton深探査領域の銀河の星質量と$U-V$カラーの 分布(上)と星質量と4000Aブレーク強度の分布(下)。 左側は赤方偏移0.2-0.7、右側は赤方偏移0.7-1.0 の様子を示している。 銀河の赤方偏移は紫外から中間赤外にかけての12バンドのデータ を用いた測光赤方偏移により、U-Vカラー、4000Aブレーク 強度はベストフィットモデルSEDから求めている。青線はKバンド での銀河の典型的な検出限界を示している。 X線で選ばれたAGNでスペクトル分布が銀河でよく表される(中心核が 隠されていると考えられる)天体を青印でプロットした。青丸は 分光赤方偏移のわかっている天体、青白丸は測光赤方偏移で赤方偏移を 推定した銀河を示している。サイズはAGNの光度をあらわし、最も 大きな印が2-10keV バンドでの光度が 10^44エルグ毎秒 を超えるもの、最も小さな印が10^43エルグ毎秒以下のもの。

ではこの赤方偏移の宇宙の銀河のブラックホール成長はどのような 銀河で起こっているのでしょうか?図4の右側にはX線源として見つかった 赤方偏移 0.8-1.3 のAGNを図2と同じ2色図上にプロットしています。 ×印で示したブロードラインAGNでは中心核の光が効いていてAGNに 特有の非常に青いカラーを示していますが、ナローラインAGNでは 銀河のカラーとコンシステントになっています。またこのカラーは ブロードラインAGNが赤化を受けた(矢印の方向に赤くなる)としては 説明がつかないこともわかります。 ナローラインAGNのカラーは母銀河のカラーを表している と考えて良さそうです。銀河のコントアと比較すると、AGN母銀河の カラー分布は、赤い楕円銀河よりも青いが、青い不規則銀河よりも赤い、 図2で言うと渦巻銀河のカラーに近いことがわかります。 右側にはナローラインAGNの平均スペクトルを示しましたが、 銀河のスペクトルと同じように、星に見られる吸収線が見られ、 AGNに特有の幅の狭い輝線成分を除けば同じカラーを持つ分類3の銀河の 平均スペクトルに近いことがわかります。このことからも ナローラインAGNでは可視光は銀河の成分が支配的になっていて、 SEDの形から星質量や、星形成史が推定できると言えます。

図4:(右)SXDS領域で赤方偏移がz=0.8-1.3 にあるX線AGNのB-R、R-z'カラーの分布を銀河のカラー分布の コントアの上にプロットしたもの。 青丸が分光赤方偏移が確認されているAGN、青白丸が測光赤方偏移 で推定されたAGN。分光でブロードラインが受かっているAGN は×印で示した。 (左)ナローラインAGNの合成スペクトル。

2極化分布図上でのAGNの分布は図3に示しています。 X線光度の大きいAGNは星質量の大きい、比較的赤い銀河に付随 することがわかります。ただし、赤い銀河ではあっても4000A ブレークの小さい銀河に近いこともわかります。この分布は AGNはダスト赤化を受けた若い銀河に付随することを 示唆しています。4000Aブレークの小さい若い銀河の系列の中で 最も星質量の大きい種族に付随するようです。

ではこれらの赤方偏移1のAGNの母銀河の質量とブラックホール質量の 関係はどのようになっているのでしょうか?母銀河の星質量の平均値を 求めると2x10^11太陽質量となります。 一方でX線光度の平均は2x10^44(エルグ毎秒)であり、QSOの平均的な スペクトル分布を仮定すると、全放射光度は5x10^45(エルグ毎秒)に 相当します。中心ブラックホールはエディントン光度の20%で光っている とすると、中心ブラックホールの質量は2x10^8太陽質量となります。 以上の仮定に基づくと粗っぽい議論ですが、 この赤方偏移の銀河の星質量とブラックホール質量の比は 近傍宇宙で見られる関係(1000倍)とオーダーで食い違うことは無いようです。 赤方偏移1の宇宙では銀河中心ブラックホールと銀河質量の間の関係も 確立していることが示唆されます。

より遠い宇宙へ:赤方偏移2の宇宙での銀河とAGN母銀河

さらに宇宙の星形成史のピーク、QSO数密度のピークとされる 赤方偏移2まで、宇宙年齢で80%まで、さかのぼった宇宙での 銀河の様子はどのようになっているのでしょうか。図5には図3と 同じようにSXDS領域の観測で見つかった 銀河の赤方偏移1から2にかけての銀河の星質量とU-Vカラー、 星質量と4000Aブレークの関係を示しています。赤方偏移1.0 から2.0にさかのぼるにつれて、赤方偏移1.0以下のサンプルで見 えていた2極化の傾向とは違う傾向が見られます。U-Vカラーの図 の上では質量の大きい銀河は赤く、質量の小さい銀河は青いと言う 傾向が見られますが、2極化というよりも連続した系列のように 見えます。また、4000Aブレークの強度で見ると、ブレークの 強度が大きい系列が無くなり、質量の大きな銀河も4000Aブレーク の小さい側の系列に載り、若い星種族になるように見えます。 この分布の変化は赤方偏移をさかのぼるにつれて、大きな銀河の 形成時期に近づいていることを示唆します。

図2と同じ。 左は赤方偏移1.0-1.5、赤方偏移1.5-2.0 の様子を示している。

では、このような銀河の進化に対して、AGNの母銀河はどこに 位置するのでしょうか。同じ図5の上にX線で検出されたAGNの母銀河 の分布を示してあります。この分布を見ると、これらのAGNは それぞれの赤方偏移で最も質量の大きい銀河に付随するらしいこと がわかります。さらに逆に図5から図3へ、赤方偏移2から赤方偏移0.5 へとたどると、AGNはいつもその宇宙にある星形成をしている 4000Aブレークの小さい銀河の系列の最も質量の大きい種族 に付随していることがわかります。このことは、大きな銀河 での星形成が終焉を迎えるにつれて、そこに付随するより大きな ブラックホールの成長も終焉を迎え、AGN活動性を示さなくなると 解釈することが出来ます。この結果、近傍宇宙に向かうにつれて 明るいAGNの割合は減り、星質量がより小さい銀河に付随するより 小さい質量のブラックホールが起こすより暗いAGN活動性が支配的 になっていくと考えることも出来ます。このことはAGNのハードX 線光度関数の進化に見られる、光度のより大きいAGNほどより 高い赤方偏移にその数密度のピークが合ったという結果とも 合致します。

定性的評価から定量的評価へ

以上で述べた結果はまだ定性的な「話」で、 まだ定量的な「議論」へと発展させる必要があります。 このようなアプローチでAGN活動性と銀河の進化の つながりを明らかにすることを目指しています。

     

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