大学卒業後、大学や研究所に残って天文の研究を続けることができるかどうか不安で、進路を迷っている高校生は大変多いと思います。実際、大学などの先生のポストは大変少ないのが現状です。これは天文学に限りません。どの研究分野でも同じです。天文学だから特別ではありません。大学や研究所などの先生は大変狭き門なのです。大学院の入学試験の面接の時に「博士課程に進みますか。その場合、天文の研究者を目指しますか」と聞くと、多くの学生が「もしできたらそうしたい」と答えます。研究者はプロの世界です。そんなに甘くはありません。サッカーで言えば、プロを目指している選手が「将来J1の選手になりたいですか」と聞かれて「できたらなりたい」などと答える人はいないと思います。「絶対になります」と決意を持った選手だけが、プロの選手になれるのです。研究者も同じです。研究者になりたいならば、「博士号を取って、絶対に天文学者になるんだ」という意気込みを持って下さい。たくさんの人が頑張っています。天文学は世界中どこでも同じですから、世界の競争の中で優れた研究をリードーする人が求められます。それでもプロの世界に入れるのは極わずかです。大学や国立天文台などの研究所で先生になれるのは、そのような決意を持ち、優れた成果を挙げた人たちです。競争は厳しいですが、その中の誰かが夢を叶えているのも確かです。

 では、大学や研究所の先生以外で、天文学を勉強した後どのような所に就職できるのでしょうか。正直、学んだ天文学を直接仕事に生かす職はあまり多くはありません。科学館の職員なども狭き門です。しかし天文学を専門に学んだ多くの人たちが、一般企業、学校や教育機関、科学館、公務員など、様々な分野で活躍しています。宇宙への素朴な関心を持って天文学の勉強や研究に励んだ学生たちの思考は柔軟です。実際、私の周辺では、「天文学で博士号を取って民間に就職する」とはっきり目標を持った学生は、博士号取得後、ほぼ100%就職できています。修士課程卒業の学生はもちろんです。天文学の研究で学位を取るわけですが、学位を取るためには、勉強の仕方、研究の仕方の訓練も受けます。その中で、新しい課題の解明に取り組んだ経験は天文学以外の分野で十分に生かすことが可能です。天文の学生はつぶしがきく(別の職業に就くための資質と能力を備えていること。金属製品は潰しても再利用出来ることからきている)と良く言われています。そのような柔軟な頭脳とやる気を持った学生を社会が期待しています。