光源に関する真空・冷却実験レポート

                                              2002.10.03 M.Konishi
						  
  MOIRCSデュワーの全体の真空・冷却実験の際に、光学系のアラインメントを行う
が、その時にターゲットを見やすくするためにデュワ-内にターゲットを照らす光源が必要
になる。しかし、デュワ-内は高真空・極低温下であるので通常の光源(豆電球やLED)
がそのまま使えるとは限らない。今回の実験ではそのような条件下に置いて通常の光源が
ちゃんと働くかどうかを調べた。
  実験は、2002年9月10日から18日に行った。
  
  1. 光源の選定
  日常使われている、つまり手に入りやすい光源として豆電球、LED(発光ダイオード)
の2種類を選んだ。それぞれについて大小2つの異なる大きさの物を用意した。
  また豆電球については、ガラスの中が寿命を長くするために不活性ガスが封入されてお
り、高真空にした時にガラスが割れて真空実験に影響が出ては困るので、あらかじめガラ
スを割ったものも用意して、その振る舞いも観察した。

  最終的に、豆電球(大)…ガラスあり(以下good大)、ガラスなし(以下broken大)
             〃  (小)…ガラスあり(以下good小)
             〃        …ガラスあり(以下フィラメント)、ガラスなし(以下broken小)
            LED(大)
              〃  (小)
の3種類7つを用意した。

  2. 冷却実験
  光源の振る舞いが分からないので、いきなり真空・冷却実験をせずに冷却実験だけを先
に行なう事にした。
ここでは、冷却実験について報告する。
  冷却には液体窒素を用いた。液体窒素を容器に貯めておいてそこへgood(大・小)、LE
D(大・小)を浸す事で冷却状態にした(brokenは常温常圧下では使えない。フィラメント
はこの時まだなかったので出来なかった)。それぞれの光源に対して2V、1.6Vの電圧
をかけておいた。

  その結果、goodは2つとも点灯し続けたがLEDはすぐに消えてしまった。LEDにつ
いてのみ電圧をあげていったところ、(大)は2.15V、(小)は8Vまであげると再点
灯した。が(小)は電圧が高過ぎたためかすぐに消えてしまった。ちなみにLED(小)に
のみ100Ωの抵抗をつけていた。

  この事から、goodは冷却しても通常通りの振る舞いをするが、LEDは通常とは異なっ
た振る舞いをする事が分かった。LEDのこの変化はおそらく抵抗値の温度変化にある物
と思われる。       
  
  3.真空・冷却実験(1)
  実験にはCIAOのテストデュワーをお借りした(中央右の赤い物体)。

  
  
  デュワーのなかにカプトンテープで光源を貼って真空・冷却を行なった(下の写真)。
  
  
  
  上側がコールドプレート。温度センサーはコールドプレート上に1つ(A)と
  光源同様上から少し離れた所に1つ(B)設置した。

  
実験スタート時、good(大)に0.8A、2.00V、broken(大)に0.37A、1.60Vを
それぞれかけて(目で見て)同じ明るさになるようにしておいた。LEDには0.007A
、10.04V、フィラメントには0.065A、5.065Vをそれぞれかけた。
  この状態で5時間冷却を行なったが、センサーBがなかなか冷えないので一時中止した
(写真は中止する直前の状態)。

  

  気のせいか、broken(大)が暗くなっているような気がしたが、電圧・電流ともに変わっ
ていなかった。定量的に明るさを評価出来ないのでよく分からなかった。

  4. 真空・冷却実験(2)
  その後、熱パスをよくするために光源を一旦アルミの上にカプトンテープで貼り付けて
そのアルミをコールドプレートに押え付ける事にした。温度センサーはAは前回と同じく
プレート上、もう1つ(B)はアルミに貼り付けた。
  まず、真空引きをして4.4x10^(-6) Torr から冷却を始めた。スタート時の電流・電圧は
    good(大・小)    …0.74A、1.57V
    broken(大・小)  …0.06A、1.80V
    LED(大・小)…0.001A、4.04V

       フィラメント    …0.065A、5.064V
      *broken(大)は接触不良で点灯させられなかったのでフィラメントとbroken(小)を
        同じ明るさになるように設定した。

  

  今回は順調に冷えて最終的にはプレートが85.649K、アルミが108.163Kま
で下がった。ここまで真空・冷却をしたがどの光源もほぼ変化する事なく点灯を続けた
(→時間ごとの写真はこちら)。

  その後引き続き、真空・冷却下でどれだけ点灯続けられるか、耐久実験も行なった。そ
の結果、開始6時間でbroken(小)は消えた。それ以外の5つは18時間続けたが点灯し続
けていた。これだけの時間点灯できていればおそらく本番の実験中に玉ギレになることは
ないだろう。

  5. まとめと考察とこれから
  今回の実験から、通常使われている豆電球やLEDは真空・冷却下でも問題なく使用で
きる事が証明できた。
  唯一、心配なのは2. の実験で明らかになったようにLEDは低温下では明るさが変化
してしまう事である。また、今回の耐久実験ではクリアしたが、豆電球の玉ギレも心配で
ある。

  つまり、
豆電球は低温下でも確実に動作するが寿命が心配、
LEDは寿命は大丈夫だが、低温下での動作が心配
ということである。 考えた結果、豆電球を1箇所に2つ用意しておき、玉ギレに備える事にした。本番の実 験では光源の必要な箇所が3つあるので、計6つ使う事になる。 あとは、本番でうまくいくことを祈るのみです。 (終)