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Research Highlights

rプロセス元素から探る銀河の初期進化史

超金属欠乏星のrプロセス元素 (Eu, Baなど) 組成は銀河の初期進化史を反映している可能性があります。しかし、銀河形成初期の化学力学進化がrプロセス元素組成に与える影響は未だ明らかになっていません。そこで本研究では、異なる密度、質量を持つ銀河の重力・流体シミュレーションを行い、その中でのrプロセス元素の進化を計算しました。その結果、力学時間が1億年程度銀河では、初期の星形成率が10-3 太陽質量/年以下となり、rプロセス元素組成が超金属欠乏星の観測値と矛盾しない結果が得られました (図A, B)。この結果はハロー質量には依存しませんでした。一方、ハローの密度が高く、力学時間が0.1億年程度の銀河では、初期の星形成率が10-2太陽質量/年以上となり、最初にrプロセス元素が現れる金属量がより高くなることがわかりました (図C, D)。さらに、星形成率の低い銀河ほど、元素が銀河内で混合されるまでに時間がかかり、rプロセス元素組成比の分散が大きくなることが示唆されました。今後超金属欠乏星のrプロセス元素組成の観測が進めば、rプロセス元素を指標として銀河進化を理解することが可能になることが期待されます。
(2017/02/20)


図:[Eu/Fe]と[Fe/H]の関係。グレースケールは計算値。左から順に初期の力学時間1億年 (A)、0.7億年 (B)、0.3 億年(C, D)のモデル。ただし、モデルDは他のモデルと密度プロファイルの形が異なる。点(小)、点(大)はそれぞれ銀河系ハロー、矮小銀河の観測値。

“Early chemo-dynamical evolution of dwarf galaxies deduced from enrichment of r-process elements”
Yutaka Hirai, Yuhri Ishimaru, Takayuki R. Saitoh, Michiko S. Fujii, Jun Hidaka and Toshitaka Kajino
2017, Monthly Notices of Royal Astronomical Society, 466, 2474 [ADS] [arXiv]

銀河の化学力学進化シミュレーションから探るrプロセス起源天体

鉄より重い元素の多くは、rプロセスと呼ばれる元素合成過程により合成されます。これらrプロセス元素は銀河系の矮小銀河やハロー星で観測されています。しかし、その起源天体は未だ明らかになっていません。連星中性子星合体は、元素合成計算から、rプロセスの起源天体として有力視されています。ところが、連星中性子星合体は合体時間が長く、発生頻度も低いため、従来の銀河形成過程を考慮しない銀河の化学進化計算では、超金属欠乏星におけるrプロセス元素の観測値を再現できないという問題がありました。そこで本研究では、連星中性子星合体をrプロセス元素の主な起源天体として、矮小銀河の流体シミュレーションを行いました。シミュレーションでは、合体時間1億年の連星中性子星合体でrプロセス元素を放出しても、超金属欠乏星の観測値と矛盾しない結果が得られました。これは、矮小銀河では、星形成効率が低く、最初の星形成が始まってから3億年程度は銀河内の重元素量が増加しないためであることがわかりました。さらに、星形成領域での重元素の混合を考慮することで、連星中性子星合体が低い頻度で起こっても、極端に高いrプロセス元素組成を持つ星は形成されないことも示唆されました。銀河系もこのような星形成効率の小さい銀河の集積により形成されたならば、連星中性子星合体でrプロセス元素を合成したとしても、観測と矛盾しない可能性があります。
(2015/11/24)


"Enrichment of r-process Elements in Dwarf Spheroidal Galaxies in Chemo-dynamical Evolution Model", Yutaka Hirai, Yuhri Ishimaru, Takayuki R. Saitoh, Michiko S. Fujii, Jun Hidaka and Toshitaka Kajino
2015, The Astrophysical Journal, 814, 41 [ADS] [arXiv]