2 観測者の系に於いて相対論的な速度で運動している電子と光子との衝突(散乱)

観測者の系 $ O$ に於いて相対論的な速度で運動( $ \gamma \gg 1$)している電子と光子との衝突(散乱)を考える。 散乱前の光子のエネルギーを観測者の系で $ \vepsilon$ と表し、 電子の静止系で $ \vepsilon'$ と表すと、 ドップラー効果のEq.(7),(8) を用いれば、

$\displaystyle \vepsilon' = \vepsilon \gamma \left(1-\beta \cos\theta_i\right) \...
...\vepsilon \gamma \left( 1-\cos\theta_i + \frac{\cos\theta_i}{2\gamma^2} \right)$ (25)

を得る。 ここで、 相対論的な電子 $ \gamma \gg 1$ につて

$\displaystyle \beta = \frac{v}{c} = \sqrt{ 1-\frac{1}{\gamma^2}} \cong 1-\frac{1}{2\gamma^2}
$

としている。 従って、 $ \left\vert 1-\cos\theta_i\right\vert \sim 1$ であれば

$\displaystyle \vepsilon' \approx \vepsilon \gamma
$

となる。 同様にして散乱後の光子のエネルギーを観測者の系で $ \vepsilon_f$ と表し、 散乱前の電子の静止系で $ \vepsilon'_f $ と表せば

$\displaystyle \vepsilon_f = \vepsilon'_f \gamma \left( 1+\beta \cos\theta'_f\ri...
...on'_f \gamma \left[ 1+ \cos\theta'_f - \frac{ \cos\theta'_f}{2\gamma^2} \right]$ (26)

であるから、 $ \left\vert 1+\cos\theta'_f\right\vert \sim 1$ であれば、

$\displaystyle \vepsilon_f \approx \vepsilon'_f \gamma
$

を得る。

観測者の系で見たとき散乱前と散乱後の光子のエネルギーの比は、 $ \vepsilon'_f \cong \vepsilon'$ であるとすれば

$\displaystyle \vepsilon_f \approx \vepsilon'_f \gamma \approx \vepsilon' \gamma \approx \vepsilon \gamma^2$ (27)

で与えられる。

ある観測者の系で見たときに、 散乱の仕方によって相対論的な電子 $ (\gamma \gg 1)$ との散乱により、 低いエネルギーの光子 $ \vepsilon$ が極めて高いエネルギーの光子 $ \vepsilon_f \approx \vepsilon \gamma^2$ に成り得ることが分かる。 例えば、 電子の静止エネルギーは約 $ 500 {\rm eV}$ なので電子の静止系で見たとき $ 100 {\rm eV}$ 位の光子でも散乱断面積としてトムソンの値を使うことができ、 電子との散乱の後は $ 100\times \gamma  {\rm eV}$ という高エネルギー光子を作り出すことになる。 上の議論を常に観測者の系から見て行うこともできる。

fat-cat 平成16年11月29日