2 散乱断面積

図 3: 入射粒子と散乱方向
\includegraphics[width=10.77truecm,scale=1.1]{rittai.eps}

無限遠方での入射電子の数密度を$ n$とする。単位時間当たり単位面積を貫く電子の数は、単位面積を底辺とする体積$ V_0$の立方体に含まれる電子の数と一致する。 無限遠方での電子の入射フラックス$ I$は単位面積当たり単位時間当たりに通過する電子の数であるから、

$\displaystyle I = nV_0$ (5)

となる。

実際の散乱実験では衝突係数$ b$を制御することは出来ない。そのかわりに$ b$の分布が一様な多数の同一速度粒子を散乱させ、散乱後ある方向に来る粒子の数を測定する。 この時$ b$は散乱角$ \theta$の関数としてEq.(3)を用いて

$\displaystyle b(\theta) = \frac{Z e^2}{m_e V_0^2} \cot{\frac{\theta}{2}}$ (6)

と書ける。

入射方向に垂直な単位面積を単位時間当たりに通過する電子の個数は$ I$である。 散乱角が$ \theta$ $ \theta+d\theta$になる衝突係数を$ b$$ b+db$とする。 入射粒子の内衝突係数が$ [b,b+db]$の間にある電子の数$ dN$は、$ b$が負の場合も考慮して、

$\displaystyle dN = 2\pi \vert bdb\vert I$ (7)

である。$ dN$ $ [\theta,\theta+d\theta]$の間に単位時間当たりに散乱される電子の数と一致する。断面積$ dS$の検出器が原子核十分離れた距離$ r$にあるとして、 これに飛び込む粒子数を考える。$ dN$は半径$ r$の球面上の $ [\theta,\theta+d\theta]$の間の帯に一様に散乱される。 この帯は半径 $ r\sin\theta$、幅$ rd\theta$であるから、検出器に飛び込む電子の数(=散乱される電子の数)は、単位時間当たり

$\displaystyle \frac{dS}{2\pi r^2 \sin\theta\,d\theta}\, dN = I \frac{b}{\sin\th...
...V_0^2}\right)^2 \frac{1}{\sin^4\dfrac{\theta}{2}} \, d\Omega ,\quad \because)\,$   Eq.(6) (8)

となる。ここで $ d\Omega=dS/r^2$であるが、これは原子核から見た検出器の単位立体角である。

単位面積を単位時間当たり$ I$個の電子が入射したとき単位時間に単位立体角当たりに散乱される散乱電子を

$\displaystyle I d\sigma = I\, \di{\sigma}{\Omega} \,d\Omega$ (9)

で表す。これで定義される$ \sigma$を断面積(cross section)、 $ d\sigma/d\Omega$を微分散乱断面積(differential cross section)という。 Eq.(8),(9)を比較すると

$\displaystyle \di{\sigma}{\Omega} = \left( \frac{Ze^2}{2m_e V_0^2}\right)^2 \frac{1}{\sin^4\dfrac{\theta}{2}}$ (10)

を得る。 $ \pi/2\leq \theta \leq \pi$の様に強く散乱される場合の散乱断面積を計算すると

$\displaystyle \sigma = \left( \frac{Ze^2}{2m_e V_0^2}\right)^2\int_0^{2\pi}d\ps...
..., \frac{1}{\sin^4\dfrac{\theta}{2}} = \pi\left(\frac{Z e^2}{m_e V_0^2}\right)^2$ (11)

となる。

著者: 茅根裕司 chinone_at_astr.tohoku.ac.jp