1 Klein-Nishina の公式

光子と電子との散乱の効率を考える。 例えば、$ x$ 軸に平行な散乱中心に向かう粒子の流束(単位時間当たりに単位面積を通過する粒子数)を $ j_{\rm incident}$、 散乱された粒子が $ \left(\theta',\phi'\right)$ 方向の微小立体角 $ d\Omega$ を通る粒子の流束を $ j_{\rm scattered} \left(\theta',\phi'\right)$ とすれば、 微分散乱断面積 $ d\sigma$

$\displaystyle d\sigma \left(\Omega'\right) = \frac{ j_{\rm scattered}  r^2 d\Omega'}{j_{\rm incident}}$ (32)

で定義される。分子は距離 $ r$ にある微小面積 $ r^2 d\Omega'$ を単位時間に通過する粒子数 $ j_{\rm scattered}  r^2d\Omega'$ であり、 それを入射粒子流束で割ったものが微分散乱断面積 $ d\sigma$ となる。 全散乱断面積はこれを立体角で積分して

$\displaystyle \sigma = \int d\sigma\left(\Omega'\right) = \int \frac{ j_{\rm scattered}  r^2 d\Omega'}{j_{\rm incident}}$ (33)

で与えられる。 これは又、 散乱される粒子数について

$\displaystyle \int j_{\rm scattered}   r^2 d\Omega' = \sigma j_{\rm incident}$ (34)

と書くことができ、 左辺の単位時間当たりに散乱された粒子数が右辺の $ j_{\rm incident}$$ \sigma$ との積で与えられることを示している。

電子と光子との全散乱断面積は、 光子のエネルギーについて非相対論的極限 $ (h \nu \ll mc^2$) ではトムソン散乱の断面積として与えられ、

$\displaystyle \sigma = \sigma_{T} = \frac{8}{3}\pi r_0^2, \quad r_0 = \frac{e^2}{mc^2}$ (35)

となる。ここで $ r_0$ は古典電子半径である。 光子と電子との散乱を量子力学的に取り扱えば Klein-Nishina の公式が導かれ、 無偏光の輻射について全散乱断面積が

$\displaystyle \sigma = \sigma_T  \frac{3}{4} \left\{ \frac{1+x}{x^3} \left[\fr...
...t]+ \frac{\ln \left(1+2x\right)}{2x} -\frac{1+3x}{\left(1+2x\right)^2} \right\}$ (36)

で与えられることが知られている。 ここで $ x=h\nu/mc^2$ である。 光子と電子との散乱は光子と電子の電荷との相互作用として表れる。 電子の代わりに陽子を使えば(符号を別にして)電荷は同じであるが質量が約2000倍になるため、 散乱断面積が電子のそれと比べて $ 1/\left(2000\right)^2$ 程度になる。 一般に電子と光子との散乱に比べて、陽子と電子との散乱は無視できる程小さいと考えてよい。

fat-cat 平成16年11月29日